【Story研修・特別版】
「非言語コミュニケーション」の話題から(2015年4月30日投稿)
貴族の館には⼩型のクローゼットしかない︕︖ 10着のワードローブ(2)
ホームステイの初⽇、マダム・シックとムッシュー・シックは揃って出迎えてくれた。紅茶を飲み終えると、マダム・シックが声をかけてくれた。「夕食前にお部屋で一息つきたいでしょう。案内するわ」。この瞬間をわたし は心待ちにしていた。こんなに美しいアパルトマンだから、わたしのお部屋もさぞかし……と期待が高まった。
お部屋はとても素敵だった。シングルベッドには緑のベルベットのカバーが掛けられ、天井まで届く大きな窓 の両側には草花模様のカーテンが掛かり、窓からは絵のように美しい中庭を眺めることができた。勉強にちょうどいい大きさの机もあり、小型のクローゼットもあった。
それまでは何もかも順調だったのに、突然、頭が真っ白になりそうになった。思わず、荷物で膨れ上がった 大型の2つのスーツケースに目をやった。これがクローゼットなの? クローゼットの扉を開くとハンガーがいくつか下がっているだけだった。わたしはとうとうパニックした。こんな狭いところに半年分の服を全部しまっておけというの︖ うそみたいだけど、どう考えてもそうにちがいなかった。
やがてすぐにわかったのだが、この家の人たちには、これくらいの小さな収納で十分だったのだ。というのも、各自 10 着くらいのワードローブしか持っていなかったから。ムッシュー・シックも、マダム・シックも、息子さんの、持っている服はどれも上質なものばかりだったけれど、彼らは同じ服をしょっちゅう繰り返し着ていた。
たとえば、マダム・シックの冬用のワードローブは、ウールのスカート 3〜4 着に、カシミアのセーターが 4 枚、シルクのブラウスが 3枚(パンツはめったに穿かなかった)。ムッシュー・シックのワードローブは、グレーのスーツ 2 着、紺のスーツ 1 着、セーター2〜3 枚、シャツが 4 枚、それにネクタイが 2〜3 本。
悩んだあげく、他の家庭にホームステイしているアメリカ⼈の留学⽣にも訊いてみたところ、やはりみんなの部屋にも大きなクローゼットはなかった。ということはフランス人はクローゼットが狭いから 10着のワードローブしか持っていないのだろうか︖ それとも10着しか必要ないから、狭いクローゼットでも⼗分なのだろうか︖
※参考⽂献︓『フランス⼈は 10 着しか服を持たない』(ジェニファー・L・スコット著/大和書房)