【Story研修・特別版】
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メラビアンの法則⑦ 「表情」から感情を読み取る研究(1)ポール・エクマン
コール(コンタクト・カスタマー)センターをはじめ、電話対応がコミュニケーション手段のすべてともいえる 場でお仕事をなさっている方々には、「〝声〟から感情を読み取る研究」は、大いに参考になったと思いま す。さて、今回から「〝表情〟から感情を読み取る研究」に入ります。マレービアン博士が55%の影響 ⼒を⽰しているように、この分野の研究は豊富です。その中から、『メラビアンの法則』に関わりの深いもの をいくつか選んで紹介します。
表情の研究では、顔の研究の第一人者であるポール・エクマンの著書『顔は口ほどに嘘をつく』の中から、 いくつかピックアップいたしました。エクマンについての解説は、著書『顔は口ほどに嘘をつく』の翻訳者・菅靖 彦氏による「訳者あとがき」から引用させていただきます。
「現在、エクマンは感情研究の世界的権威とみなされているが、彼の研究が飛躍的な発展を遂げたのは、 同僚のウォリー・フリーセンとともに、顔⾯の筋肉の動きを測定するツール(表現記述法)を開発したこと によるものだった。このツールは今、さまざまな分野に応用され、画期的な成果をもたらしているようだ。中で も、夫婦喧嘩をする夫婦の姿をビデオに収録し、このツールを使って二人の顔の表情を解析することによっ て、15年後の夫婦の未来を予測する、ワシントン⼤学のジョン・ゴットマンの研究(第37回で紹介) は有名。」
これについては、何回も登場しているマルコム・グラッドウェル氏がポール・エクマン氏を訪ね、この研究に対してインタビューしたものが同氏の『第1感』にありますので、そちらに解説をゆだねます。なお、『顔は口ほど に嘘をつく』に書かれた当該箇所は、参考資料として最後に転載いたしますので、興味のある⽅はご覧ください。
「エクマンによれば、顔に現れる情報は心の中で起きていることを示すただの 合図ではなく、ある意味で、心の中で起きていることそのものでもある。エクマンがそう考えるようになったの は、フリーセンと向かい合い、怒りや苦悩の表情を作り始めた頃のことだ。『何週間も経った頃、1⽇中いろんな表情を作っていると後でいやな気分になることを、どちらかがやっと認めたんだ』とフリーセンは言う。 『するともう一人も、やはり気分がすぐれないことに気づいた。そこで私たちはそれまでの記録をたどってみた』。」
「彼らは過去に遡り、特定の表情を作っている間の⾝体の様⼦を観察し始めた。例えば眉の内側を上げ て、頬を上げて、唇の下を下げる。エクマンはそう⾔って3つの表情をして⾒せた。『私たちが発⾒したのは、 こうやって表情を作るだけで、⾃律神経系に目⽴った変化が現れるということだった。最初にそのことに気づいた時は驚いた。まったく予期しなかったからね。二人とも経験したんだ。ひどい気分だったよ。私たちは悲し みや苦悩の感情を⽣み出していたんだ。眉を上げて、上瞼を上げ、瞼を細め、唇をぎゅっと結ぶと、怒りの 感情が⽣まれる。⼼拍数が10は上がる。両⼿が熱くなる。感情を切り離して表情だけを作ることはでき ないんだ。実に不愉快な話だ』。」
この不愉快な体験に関してエクマンは、『顔は⼝ほどに嘘をつく』で触れています。 「故意に表情をつくることによって、感情を湧き出させるのは、あまり一般的な方法ではないだろう。けれども、 わたしたちは案外ひんぱんにそのようなことをやっているのかもしれない。エドガー・アラン・ポーは『盗まれた手紙』のなかでこんなふうに書いている。
さすがに推理⼩説の⽣みの親とも称され、ボードレールにも評価されたという多彩な⽂豪は、19世紀 前半にしてエクマンの研究を先取りしたようなことをすでに書かれているのですね。本当に敬服いたします。 さて次は、エクマンの感情の変化と表情の関係をわかりやすく⼀覧にしたものです。その後が参考資料です。
出典は深⽥博⼰著『コミュニケーション⼼理学』の「表情の分類と判断」です。「エクマンら(1975)は、表情から感情を判断する時、顔のどの部分の変化が判断の手がかりになるか を、基本的な感情について調べているが、次のようなことがわかった。
①幸福︓唇の上端があがってうしろに引かれ、頬があがる。
②驚き︓眉が上がり、目を⼤きく⾒開く。顎が下がる。
③恐怖︓眉があがり、眉と眉の間が狭い。額の横にしわができる。
④嫌悪︓上唇があがり、⿐にしわが寄って、下まぶたが上に押しあげられる。
⑤怒り︓眉の間にたてじわができ、目がふくらんで⾒える。⼝は強く閉じられるか、四角状に開けられる。
⑥悲しみ︓唇の両端が下がり、視線も下がり気味になる。
【参考資料】 『顔は口ほどに嘘をつく』(P.86より)
「顔面の筋肉の動きから表情を解読する。ここに感情が生まれ得る最後の道がある。新しい予期せぬ道だ。わたしがそれを発⾒したのは、同僚のウォリー・フリーセンと⼀緒に、顔の動きを測定するテクニックを開 発している最中だった。顔の筋肉がどのようにして顔の表情を変えるのかを知るために、わたしたちは、自分 自身で体系的に顔の筋肉を動かして、それをビデオテープに収めた。
最初は1つの筋⾁を動かすことから始め、6つの異なる筋⾁を同時に動かして組み合わせるというところま でいった。いくつもの筋肉を同時に動かすのは、かならずしも簡単ではなかったが、何カ月もの訓練の末にその⽅法を会得し、1万もの異なった顔⾯の筋⾁活動の組合せを記録した。このビデオテープを後で調べて みることによって、⼀つ⼀つの顔の表情から、どの筋⾁がそれを⽣み出しているかを学んだ(この知識が、 「FACSという測定システム=表現記述法︓⼭本注」の基盤となった)。
私は特定の表情を作ったとき、強い感情に満たされることを発⾒した。どんな表情でもそうかというと、そうではなかった。万人にとって普遍的であることが確認された表情だけだった。フリーセンもそうしたことが起こるかどうか尋ねてみたところ、彼もまた、ある表情をしたときにある感情を覚えると報告した。そして、しばしばとても不快に感じたと⾔った。(中略)
それからの10年以上にわたって、私たちは4つの実験を⾏った。その中には、⻄洋⽂化に属していない ⻄スマトラ島に住むミナンカバウ族との実験も含まれていた。私たちは特定の筋⾁を動かすよう⼈々に指 ⽰した。すると、指⽰に従って顔の筋⾁を動かした⼈たちは、⽣理的な変化を⽰し、たいていは感情を覚えると報告した。どんな顔の表情でもどのような変化を生み出したわけではなかった。私たちの初期の研究 で、顔の普遍的な表現であることが⾒出された筋⾁の動きを作りだす必要があったのだ。